だけど、これは伝えてもいい言葉?

 

 
 「最近、ルルなにしてるの?」
 
 いつもの、怒った口調じゃない、彼女には珍しい感情を抑えた声だった。
 …ゼロの仕事をしてるんだ。なんて、言えるわけがない。
 シャーリーは、どう思うだろう。
 多くの犠牲を出しておいて、正義を掲げる仮面の男を、どう思っているだろう。
 それが俺だと知ったら、どう思うだろう。
 どう。
 
 「…何もしてないよ。ただ、ちょっと面白い遊びを見つけただけさ」
 「そればっかり。」
 
 ぷくっと頬を膨らますのが可愛らしい。
 そのままシャーリーはうつむいて黙ってしまった。いつもの威勢は何処へいったんだろう。
 すると、突然立ち上がり、笑った。
 
 「…ごめん、もう部活、いくね」
 
 それは、俺がいつも彼女に見せているものとよく似ている気がした。
 いや嘘をつきなれていない彼女の手は、震えていたけど。
 
 その手を。
 
 その手を、握るべきなのかもしれない。
 細くて白い、綺麗な手だ。だけど、きっと今は不安におびえて。
 なぜだろう。わからない。でも、俺を心配してのことだったら、なおさら。
 
 だけど、触れようと腕を動かして、ぴくりと止まる。
 だめだ、触ったら壊れてしまう。
 そんな気がして。
 
 「ルル?」
 「あ…」
 「どうしたの? ぼうっとして」
 
 俺の顔を覗き込んで、首をかしげている。彼女のエメラルド色の瞳が自分の顔を映している。
 その顔は、ひどく優しげに笑ったのを見て、ぞっとした。
 血が通っていない、人形のようだと思った。
 
 「ごめん、大丈夫だ。なんでもない」
 「……そう? じゃあ、行くね」
 
 “うそつき”
 
 幾度となく、シャーリーにも言われた言葉だ。
 だけど、今、彼女の唇からその言葉が空気を揺らすのが、ひどく怖い。
 君は、君も俺をうそつきだって、いうんだろうか。
 
 「ルル?」
 「シャーリー」
 「え…」
 
 思わず立ち上がって、シャーリーに詰め寄った。
 シャーリーは顔を真っ赤にして、俺を上目づかいに見詰めている。
 
 「シャーリー、俺は…っ」
 「な…何?」
 「お、れは…」
 
 何を、言うべきなのだろう。
 こういうとき何を言えばいいんだろう。
 何を言おうとした?
 “俺は”? うそつきじゃないとでも、言うつもりだったのか。
 それは、そんなことを言ったら、それこそうそつきだ。
 
 だけど、ただ、分かってほしくて。
 
 孤独の道を選んだっていうのに、こんなにも君を求めてる。
 君に理解されたい。
 君に抱擁されるように優しく愛されたい。
 君に。
 
 「俺は…シャーリー」
 
 自分の言いたいことが分かってしまって、顔が熱くなった。