中編1

 

 
 
 
 「ルルーシュ! ルルーシュー!」
 
何だか始まり方が前回と同じだな。
そんなことをぼんやり思いながら、持っていた書類をぱさりと机に置いた。
だが、声は違う。昨日はあの馬鹿ップルの騎士の方だったが、今日は姫の方だ。
 
 「騎士を決めたって本当?!」
 
 ばん!と大きく音を立てて執務室に入り、とルルーシュの前に立つ。
 一房を大きな団子にした桃色の髪を少し乱れさせている。最近よくきている仕事用のぴちりとした姿でなく、普段着用のドレスを着ているので、余程急いできたのだろう。
 
 「ああ、シャーリー・フェネット。高校二年生、士官学校入学希望。」
 「そういうことじゃなくて!」
 「何?」
 
 噂好きなユーフェミアの事なので、てっきりそう言うことを聞きたいのだと思っていたが。
 
 「お姉さま、凄く怒っていたんだから!」
 「ああ…」
 
 頭に二つ角をつけんばかりに紫の瞳を吊り上げている姉の姿が浮かぶ。
 それはそうだろうな。だってあの女を騎士にしたのだって、あの姉、コーネリア・リ・ブリタニアへの反抗心もあったのだから。
 
 「仕方ないな」
 「仕方ないなじゃありません。凄かったんだから。ルルーシュが騎士を士官学校にも言ってない女子高生に決めたって決めたと聞いた瞬間「ルルーシュゥ!!」って」
 「それは是非見たかったな」
 
 笑いがこみあげて、「ふ」と笑うとユーフェミアがさらに眉を吊り上げた。
 腰に手をやって座るルルーシュの顔を覗き込み、悪いことをした生徒を叱るような口調で言う。
 
 「面白がってはだめ! 最近、それでなくてもお姉さまは怒りっぽいのに…」
 「老人だな」
 「こらルルーシュ!」
 「というか」
 
 そろそろ話題を変えなければこの姫の機嫌は直らないだろう。
 そこでルルーシュは反則といっても仕方ないくらい彼女が楽しい話題を持ち出すことにした。
 
 「スザクとはどうなんだ? ようやく念願叶ったらしいじゃないか」
 
 やさしーーーーく笑って言ってやれば、ぱあっとユーフェミアの顔がほころぶ。
 なんて単純なんだ。簡単すぎて笑いがもれそうだぞ。
 
 「そうなの! スザクったらね、「ユフィのことはこの命にかけて守るから」っていうの。嬉しいけど、でもダメ。だってスザクが死んだら、私…」
 「…」
 
 ぽおっと赤くなった頬を両手で包んでにやけている姿は、とてもニーナには見せられそうにない。
 どれだけバカップルなんだ、この二人は。
 呆れて頬杖をついたとき、コンコンと扉を遠慮勝ちに叩く音。
 
 「あら、どなた?」
 「君の会いたい人だ」
 「!」
 
 ユーフェミアは頬から少し手を離し、目を見開いた顔で扉を見つめた。
 やっぱりユフィは興味津々か。
 ふっと小さく笑い、「入れ」と言えばまた遠慮勝ちに扉がゆっくりと開く。
 
 「し、失礼します!」
 
 体育会系という感じの、元気のいい、やや緊張した声が響いた。
 ドアから顔、上半身、下半身と少しずつ室内に入ってきたのは、シャーリー・フェネット。ルルーシュが指名した新任騎士だ。
 ユーフェミアは小さく息をのんだ。
 
 ――――可愛い。
 
 おそらく胸あたりまであるオレンジ色の髪を、後ろで高くひとつにまとめている。服はきちりと士官学校用の白い制服を着ていた。そして、顔立ちはモデル並みに整っている。目がくりっとしていて大きいし、鼻筋も綺麗にとおっていた。
 そこで思い当たる。
 
 「る、ルルーシュ! 貴方もしかして…」
 「しゃ、シャーリー・フェネット、ただいま参りました!」
 
 彼女にはユフィがルルーシュに囁こうとしたことも気づくこともできなかったようで、硬く気お付けをして叫んだ。すれば、ルルーシュは偉そうに椅子に凭れかかって「もう少し近くにこい」と笑う。
 
 「は、はい!」
 
 まあ、ルルーシュの意図がどうであれ、公衆の面前で騎士宣言をした以上、撤回することは難しいだろう。それにがちがちに右手と右足を一緒に出して歩く姿は好感がもてる。
 そう思うと、元からポジティブなユーフェミアは楽しくなってきた。
 高鳴る胸を押さえるように右手をおくと、皇女らしく挨拶する。
 
 「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアと申します」
 「ぞ、存じております!」
 「なら良かったです。フェネット卿は17歳と聞きました。同年代です!私のことは、ユフィと呼んでください。」
 「え、いやいやいや、それは…っ!」
 
 ちら、とルルーシュを見やってくるシャーリー。なるほど、何事も主の確認を。か。なかなかできているじゃないか、騎士志望。
 
 「かまわない。大体、ユフィは断った方が面倒くさいことになるぞ」
「イ、    イエスユアハイネス。ではユフィ、さま?」
「ユフィ! 呼び捨てです。私も、もちろんプライベートのみとなりますが、シャーリーと呼んでも?」
「イ…」
「今はプライベートですよ」
「それは君に取ってだろう。彼女にとっては初仕事だ」
 
 さすがに押されまくっているシャーリーが気の毒にでもなったのか、ルルーシュが助け舟をだす。
 だが、シャーリーは屈託なくニコリと笑った。
 
 「じゃあ、ユフィ。嬉しいで…嬉しい。友達ができたわ」
 「お前…なかなか適応能力があるんだな」
 「はい! 何だか緊張も解けていい感じです!」
 「……そうか」
 
 …何だか、思ってたのと違うキャラだぞ?
 もう少しオドオドしていると踏んでいたのだが、やはり根っからの体育会系というわけだろうか。いや、体育会系でもここまで?
 
 「あら、とても気が合いそうだわ!」
 
 ああ、成程、ユフィと同じ人種か。
 いや正確には少し違うのだろうが、似てると言ってもいいレベルだろう。
 
 「改めて、シャーリー・フェネットです!」
 「よろしく。」
 「……それだけですか?」
  「は?」
  「もうちょっと謝るとかなんかないんですか?!」
 
 ユーフェミアは眼をぱちくりさせて、目の前でシャーリーがルルーシュを睨みつけて声を荒げる様子を見ていた。確かにシャーリーにも不満はあったろうが、まさか初日に文句を言ってくるとは思わなかった。
 だが、残念だ。
 ルルーシュは、ここで謝ったり自分が悪いと思ったりするような男ではない。
 
 「俺が? なぜ?」
 「なぜって…貴方が勝手に私を騎士!」
 「いやだったのか?」
 「いやありがたかったですが」
 「ならいいだろう。面倒な事を言い出すな」
 「め、面倒――――?!」
 
 ユーフェミアがキレたシャーリーの口を抑え込むまで、あと5秒。