こんなのって、あの人以来なんだ。

 

 
 
 『ギアス』
 
 それが、目の前に座る彼―――ルルーシュ・ランペルージとC.C.が説明してくれた力。
 様々な力を契約者によって得ることができるらしいが、初めて聞いたその感想は、迷わずに『不気味』だった。
 人を操ったり、心を読んだりなど、魔術であっても到底奇異な種類だ。
 
 
 「つまり、君達が探す羽、とやらとは無関係だ」
 「そうかなー」
 
 ファイがその長い体をしなやかに伸ばす。
 
 「もし、そのギアスの根本がサクラちゃんの羽だったら…」
 「!」
 「…そんな」
 
 ファイにすべての目線が集まる。モコナがそのまま呆然と口を開く。
 
 「ううん、でも、確かに羽の力は、似てるだけだと思ってたけど、この二人からも感じるの!」
 「じゃあ…やはり」
 「……その羽、というのに関して俺は情報不足だが――――、今、そのギアスの源かもしれないという羽をとられては困る」
 
 有無を言わせないような、強い視線をルルーシュが投じている。
 だが、それに簡単にうなずくようなことはない。
 
 「……おれだって困る」
 「なら―――――――取引といこうか」
 
 
 
 
 ざぁっと吹く風が寒い。
 
 「僕は枢木スザク。小狼、という方とは別の」
 「……すざく」
 
 『今は、遠くに行っちゃったみたいに感じるけど』
 
 あの時、シャーリーさんが言っていたのは彼か。
 どこかひりひりと痛む心を無視して、笑った。
 
 「シャーリーさんと知り合いですか?」
 「あれ、知ってるんですか? 彼女は顔がひろいな…」
 
 そこまで楽しそうに言って、はっとしたように目を開き、俯いてしまった。
 
 「…スザクさん?」
 「さん付なんていいですよ。スザクって呼んで。サクラ」
 「え…うんっ」
 
 何だかうれしくて、肩を浮き上がらせて頷いた。
 
 
――――違う。
 全くもって、アイツはあの小僧と違うじゃないか。
 黒鋼は一定距離を保ちながら二人についていっていた。
 そして、改めて思う。違う。違和感なんてもんじゃない、根本的にアイツは違う。
 魂が同じ―――とはよく言ったものだが、彼はそれさえも違うだろう。
 
 それとも、だからか。
 
 似ていないから、だけど似ているからか。
 ああ、なんであの姫はあんなに強いのに、時々凄く弱いんだ。
 
 
 
 
 
 
 「…それは、できない」
 「なぜだ?」
 
 ルルーシュの出した提案に、小狼はすぐに首を振った。
 彼のそれは、ルルーシュの達成したい『目的』がすべて終わったら羽を返す、ということだった。
 だがそれには時間がかかりすぎる。
 そうすると。
 小狼は、金髪の男をちらりと一瞥する。すれば、ぱっと目があい、彼が笑った。
 
 「……オレは大丈夫だよ。ちなみにルルーシュ君、それはどのくらいかかるのかなー?」
 「半年…そうだ半年あればいい」
 「半年…長すぎる。やはり…」
 
 小狼がもう一度首を振ろうとしたとき、ファイが手を挙げてそれを制した。
 
 「いいよ。」
 「…! だが!」
 「いいんだ小狼くん。決めたのは、オレだ」
 「…っ」
 
 あの時。
 東京国で彼女に誓った思いは本物だ。
 
 『我が唯一の姫』
 
 サクラを愛している。
 それは恋じゃない。敬愛? それに近いかもしれない。
 ただ君を想っている。
 君が笑う時、オレは救われた気持ちになるから――――――。
 だから君を守るために。
 
 
 
 「いいんだよー」
 
 にこ、と笑って小狼の頭をなでてやると、少し小狼は眉間にしわを寄せたが、「…分かった」と頷き、ルルーシュを見た。
 
 「交渉成立か」
 
 ふっと笑うと、ベッドに座った彼はゆっくりと足を組み直した。
 どこぞの王子のようだ、と思う。一つ一つのしぐさが気品高い。
 小狼がうなずくと、急にルルーシュは鎮痛な面持ちになった。
 
 「あと、これは俺のただの頼みだが―――」
 「なんだ」
 「黒の騎士団に入らないか」
 「…すいませんけどー、その集団自体どういうものなのかさっぱり」
 
 ファイがへらっと言うと、C.C.がベッドに寝転んだまま口を開いた。
 
 「…いいのかルルーシュ。こんな簡単に」
 「彼等は異世界の住人だそうじゃないか。馬鹿なような話だが、この生き物を見ればそれも存外不思議ではない。それに、彼等は口も堅そうだしな」
 「買いかぶりすぎじゃないか? 今日会ったばかりで」
 「そうか? だが実際、お前たちはおそらく、この世界に必要以上介入しようとはしていないのだろう? そういう鉄則があるのは当たり前だ」
 「……。」
 
 確かに、小狼達のような異世界人が世界をどうこうしていいわけじゃない。
 だから、世界を動転させるようなことは避けたいので、おもむろに喋ったりするわけがなかった。
 
 「だから、俺は君らに願う。黒の騎士団に、入らないか」