しんぞうが しにそう!

 

 
 ・・・。
 
 静かな空気が流れている。
 だけど俺の胸はうるさいくらい鳴っているんだ。
 熱い、冷房はきかないのか! そういえばこの家は去年から壊れているんだったな、さっさと直せっていっただろっていうか四月だよまだ!
 
 …だめだ、落ちつけ、俺。
 
 とりあえず状況をもう一度思い返してみよう。
 ここはスザクとユフィの家。いつも通り優しい匂いのする、物の少ない殺風景なリビング。
 リビングといっても、入って三歩でたどり着くおよそ五畳ほどの小さな部屋だ。
そこには小さな卓袱台がおかれていることと、前にこれまた小さいキッチンがあることだけが、リビングということを主張している。
 
 そしてただいま、午後一時。
 部屋には俺と、そして、少し緊張した面持ちで俯いている彼女。
 
 
 一瞬、目が合ってしまい、ぱっと眼を逸らす。
 
 
 …こういう事態になる経緯はこうだ。
 
 
 
 「どうして君がいるんだっ!」
 
 突然の訪問者にスザクが怒鳴りながら立ち上がる。
 さすがのユフィも戸惑ってスザクと訪問者を交互に見て首をかしげている。
 シャーリーも目を丸くして、それから「あの人…」と小さくつぶやいた。
 俺も一瞬固まってしまったが、訪問者が言った言葉を頭の中で繰り返す。
 
 『スザクの将来の相手』
 
 だと?!
 
 ふざけるなそんなもの認めてたまるものか。
 …まあ、スザクも苛立っていたし、何分男なのだから冗談に過ぎないだろう。
 そんなことを考えている間にスザクは訪問者の方へ近寄って、何やら話していた。
 これまたその訪問者は金髪の、いかにもお坊ちゃまといった感じの男だ。
 にこにこと屈託なく笑っている彼に反し、スザクは迷惑そうに声を荒げている。
 すると、ぱちっと目が合ってしまった。
 
 「…。」
 
 その男から一瞬笑顔が消え失せ、今度は口元だけで笑った。
 さっきとはまるで違う、冷え切った笑み。
 
 「どうも」
 「あ…どうも」
 「っ、もうっ! いいよ分かった! ルルーシュ、ごめん僕ちょっと出かけてくる! 嫌だけど!」
 「もーまたまた、スザクったら照れちゃって」
 「ウザい!」
 
 そう言って彼の言葉を一刀両断、そのまま背の高い訪問者の背中を押して部屋から出て行った。
 
 
 「…行っちゃったね」
 「行っちゃったわ」
 「……」
 
 呆然と三人の頭の上に沈黙が流れる。
 すると、突然ユフィが立ち上がった。
 
 「な、何をしているの、私! これではお邪魔虫です!」
 「「え?」」
 「ではシャーリーさん、ルルーシュ、ゆっくりね! 私、ナナリーと出かけてくるから!」
 「は? ちょっ」
 「ユーフェミアさん?!」
 
 
 と、いうことだ。
 
 相変わらずの沈黙が流れている。
 そろっとシャーリーをのぞき見ると、頬を赤くして目線を下に向けている彼女がいた。
 すきとおる白い肌、伏せられた緑のキラキラ光る瞳。赤くなった頬が可愛らしい。
 シャーリーの元気を象徴するようなオレンジの髪を、耳にかける――――――――。
 
 ばち☆
 
 そんな少女マンガみたいな音が本当にした気がする。
 思いっきり目が合ってしまい、だけどお互いにタイミングを逃したらしく、目線をそらすにそらせない。
 シャーリーの顔がみるみる赤くなり、それから、ふっとほほ笑んだ。
 
 「ど、どうした?!」
 「ううん、何か分かんないけど笑っちゃった」
 「…曖昧だな」
 「そうやって何でも理由づけしようとするのって良くないと思う」
 
 ぷくっと頬を膨らませるシャーリーはすごく可愛い。
 
 「…そうか?」
 「……そう! 理由じゃ語れないもの」
 
 小さくつぶやいた言葉は、よく聞こえなかった。
 
 つづく!☆