少し前

 

 
 
 
 最近気になる人がいます。
 
 
 
 
 
 「あーーー!」
 「かっこいいー」
 
 廊下を歩いていると窓際に立つ女の子たちが騒ぎだし、気になって足を止める。
 シャーリーは何事かと窓から様子を覗き込んだ。
 
 「…あ」
 
 シャーリーはちょっと呆れた溜息交じりの声を出す。
 女の子が騒ぎだした原因は、ルルーシュ・ランペルージ。
 シャーリーと同じクラスの男子生徒で、ルックスは奇跡的な程いい。
 今も遠目から見ても紫色の宝石みたいな瞳はキラキラ光っている。風に揺れる黒髪がさらにそれを際立たせていて、アッシュホード学園の黒い制服を誰よりも着こなしていた。
 庭のベンチに座り、何やらパソコンを弄っている。
 ゆっくりと彼が足を組むと、「きゃー」と隣から声。
 
 「すっごいかっこいー。何か、すっごい気品高いよねっ」
 「皇子様みたい」
 
 星の王子様。
 そんな言葉がよく似合う、綺麗な男の子。
 
 前にちょっとしたきっかけで彼が気になりだし、それから目で追うようになって、生徒会でも同じになって。
 それでも何だか好きになれない。
 
 だけど気になるんです。
 
 
 
 
 最近、うるさい人がいます。
 
 
 「ルルーシュッ、賭けチェス行こうぜっ」
 「ああ」
 
 放課後。
 リヴァルに肩を叩かれて、笑顔で返事をする。
 
 「こらぁーーーーー!!」
 「げっ」
 
 リヴァルがあからさまに顔をゆがめる。
 まずいな。
 ルルーシュはリヴァルのように声には出さなかったが、端正な眉をぴくっと動かす。
 声の主は、教室のドアを通せんぼしている。
 
 「今日は生徒会だって忙しいんだから! それに賭けチェスはやめろって前から!」
 「あーいや、だってシャーリー」
 「…」
 
 焦って言い訳を並べるリヴァルの隣で、ルルーシュは静かに溜息をつく。
 シャーリー・フェネット。
 オレンジ色のさらさらした髪に、整った容貌に光る翠色の綺麗な二つの瞳。健康的でバランスもいい身体。
 容姿は「美少女」といっても過言でない部類で、性格だって明るく人当たりもいい彼女はおそらく男子生徒にとって理想的な恋人候補とでもいうべきか。
 だが。
 
 「ねぇっ、聞いてるの、ルル!」
 「聞いてるよシャーリー」
 
 少しうるさかったりする。
 笑顔で返事をすると、何故か頬を少し赤らめて「だったらいいけど」とどもり、また説教に戻る。
 彼女は、俺の事をルル、と呼ぶ。
 そう呼んでいいのは、母さんだけだと思っていたのに、何故か彼女は許せる。
 なぜなのだろう。
 
 「もうっ、ルル! ルルってばっ」
 「あ、はいはい。」
 「むぅ。とにかく、今日からせめて一週間は生徒会忙しいんだから賭けチェスは禁止っ」
 「「……はい」」
 
 そう返事するしか、彼女の説教は止められない。
 
 お前は母親かってくらい、うるさい。

  (はあ、まったく)

  (いつも私は君に戸惑わされる)