「ジノ、っていうんだ。」
にっこりとした憎めない笑顔で言うかれに、思わず自分も名乗ってしまっていた。
いくら公衆の面前で大恥をかかされたとはいえ、一応心配してくれてのことだったのだから。
だけど今は、それを凄く後悔している。
「ねーあの人だれー?」
「超カッコよくない?」
「あ、こっち向いて笑ってくれた! 話しかけちゃおっかな?」
なんだろう?
そう思って顔をあげて女の子達の目線を追えば。
思わず叫びだしそうになったのをなんとかこらえた。
何で校門の前で堂々と佇んでいるんだ!!
背の高い金髪の彼は、長い脚を軽くからませていて、元々整った顔のためかそこだけきりとれば映画の一部分のようだった。
「わー誰だろう? あれ、スザク君、どうして固まってるの?」
「シャーリー、先に行ってて。」
「へ‽」
隣に立っていたシャーリーにそう告げると、スザクは短い脚を精一杯大きく動かしてジノの元へ向かった。
それに気づいたジノはぱあっと笑みを開け、スザクに駆け寄ってくる。
「スーザクッ! 来ちゃった☆」
「来ちゃった☆じゃないだろ! 意味が分からないどうして君がっ」
「ね、これから出かけない?」
「何言ってるんだ! 僕はこれから…」
「これから?」
にっっっこりと嫌味なほど笑いながら問いかけてくるジノに言葉を詰まらせる。
実は何もなかったりするが、苦し紛れに言う。
「勉強に決まってる、だろ。僕は受験生なんだ」
「それは私だってだよスザク。というか、だから会いに来たんだ」
「スザク君? 知り合いなの?」
「お、またこれは可愛らしいお嬢さんだ。私はジノ・ヴァインベルグ。スザクの」
「ただの知り合いだっ」
ジノの言葉を遮って言うと、スザクは苛立ちを隠さずにジノを引っ張りながらシャーリーに言った。
「シャーリー、悪いけどホントに先帰ってて!」
「わ、わかった」
「なんだよスザクぅー」
「るっさいこっち来いっ!」
「で、何の用だ」
ファーストフード店のがやつきの中、じとっと睨みつけて尋ねると、それを意にも解せずにへらっと笑ってジノは答える。
「もっちろんスザクに会いに。それと、この前泣いていた理由」
「…君には関係ない」
シリアスな理由ならともかく、「勉強できないからだといえば確実に笑われる。
むすっと目をそらすと、まだハイテンションな口調でジノは続けた。
「私なりに考えてみたんだけど、もしかしてスザクって勉強できないから泣いてたの?」
「…!?」
な、なんで知ってるんだ?
スザクのあからさまな反応にそうだと確信してしまったらしい。
やっぱりな、とジノは呟くとまだ続けた。
「うん、そりゃあこの前のテストで英語40…数学21点、国語はいいけど、理科19点はまずいな。あとこのテストの回答だけど何でここはこの答えになったんだ? これはちょと奇跡的だぞ。私も何通りか考えたがこの間違い方は」
「わぁーーーーーーーーーー!!」
なんてやつだ!
こんな公衆の面前で人の点数をべらべらと…いや、ていうか何でジノがそんなの知ってるんだ!
「どうして知っているんだ! 個人情報だぞそれは!」
「スザクの家庭教師をするって先生に言ったら簡単だったぞ」
「せんせぇーーーーーーーー!」
いつも優しくて時に厳しい予備校先生・ジェイドを恨んでいると、はっとする。
「家庭教師?!」
「うん。」
にっこりと笑みを返されれば、固まるしかない。
って違う!!
「い、嫌だなんで君なんかっ」
「いやだ? 言っとくけどスザク、お前本当にヤバいよ?」
優しい口調で。でも確かに胸をえぐってくる。
確かに言うとおりだ、僕はヤバい。
でも!
「ぼ、僕にはもう家庭教師くらいいるんだ!」
「…へえ、どんな?」
「さ、最近はちょっと忙しそうだけど、暇なときは見てくれるんだ。すっっっごく賢くてわかりやすくてかっこいんだ!」
君と違って!と付け加えると、初めてジノの顔から笑顔が消え、むっとした表情になる。
それに多少驚きながらも、諦めたかなと思い勝利の笑みを浮かびかけた時。
「そうか…なら、なおさら引けない」
「…はあ?!」
「言っておくがタダだ。大体、そいつには時々しか見てもらえてないようじゃないか。」
「う、うるさい。君には関係ないし、それに家に来るのは困る」
変な勘違いをされたらどうする。
いや普通に考えてそれはないが、必然的にルルーシュといる時間が減るのだ。
それだけは絶対に嫌だ。
「なら家にきてもいい」
「それもヤダ。」
「子供かよ」
「それは君だ」
しん、と静まり、気まずい空気が流れる。
そんな中、突然ジノがからかうような笑みを浮かべた。
「分かったぞスザク。お前、その教師が好きなんだな」
「!」
なんでこんなに人の事を見透かしてくるんだこいつは!
正直なスザクは思わず硬直してしまう。
「なんだ、やっぱりそうか。…ムカつくなー」
「はっ?」
「絶対 家庭教師になってやるからな」
口元は辛うじて笑ってはいるものの、目が本気だ。
でもなんだかそれも気に食わなくて、「ばーーーか」と舌を出してやった。
それが最初の宣戦布告。