あいしてる!

 

 
 
 「ルル――!」
 
 パタパタと廊下を走ってくる恋人。
 彼女の明るさを象徴するオレンジ色の髪を揺らし、満面の笑顔のシャーリー・フェネットはルルーシュの傍までくると「えへへ」と笑う。
 ルルーシュもつられて笑いながら訪ねた。
 
 「どうした?」
 「あのね、ルル。きょう、バ…」
 「ルルーシュー! スザクが呼んでたぞ」
 「ああ、そういえば今日約束してたんだったな」
 「え」
 
 ルルーシュは、その時のシャーリーの悲しそうな顔に気づくことはなく、申し訳なさそうに言った。
 
 「ごめんシャーリー。今日は」
 「…っいいもん」
 「へ‽」
 
 俯いて小さくつぶやくように言ったかと思うと、ばっとシャーリーは顔をあげ叫んだ。
 
 「ルルなんて! 一生スザク君とラブラブしてればいいじゃない! いいわよどうせ私とルルなんてマイナーカップリングよ! 王道にはかなわないもんっ」
 「え、ちょ、シャーリー? な、何でないて…」
 「ルルなんて、ばーーーかっ!!」
 
 シャーリーは制服の裾で涙をぬぐうと、いーーと歯を見せて走って行ってしまった。
ルルーシュは、わけもわからずに固まるしかできなかった。
 
 「…ルルーシュ? どうしたんだよ、廊下の視線を独り占めして」
 「スザク…っ!」
 
 
 
 
 
 ルルーシュの話を一通り聞いたスザクはなんともいえない呆れ顔になった。
 
 「ルルーシュ…君、僕が何で今日、君を誘ったのかも分かっていないのか」
 「は? え?」
 「はーーー」
 
 大きく溜息をつくと、スザクは頭を抱えながら話す。
 ルルーシュはいつもとは逆の立場になんともいえない屈辱感を味わいながらも素直に聞くことにした。
 なんといってもシャーリーに「一生スザク君とラブラブしてればいいじゃない」まで言われると結構つらかった。
 
 「僕が君を誘ったのは、今日一緒にチョコレートを作ろうと思ったからだよ」
 「チョコレート?」
 「逆チョコが流行ってるだろ、だから」
 「…! もしかして今日は」
 「そう、バレンタインデーだ」
 
 ルルーシュはやっとシャーリーがあそこまで怒った理由が理解できた気がした。
 そりゃあ恋人の日に、親友と過ごすよ☆なんていわれたら怒るに決まっている。
 俺だったらなくかもしれない。
 
 「しゃ、シャーリーのところに行ってくる」
 「待った」
 
 立ち上がったところをがし、とスザクにつかまれる。
 
 「うるさい邪魔をするなスザク! 破局の危機なんだぞコレは!」
 「だからじゃないか」
 
 にこ、とスザクは笑った。
 
 
 
 夜。シャーリーは何故か生徒会室にいた。
 自分でも馬鹿だと思う。
 もしかしたら、あの最低男が来てくれるかもしれない、なんて。
 
 「ルルの馬鹿、あんぽんたん、鈍感、体力無し、でも頭いい、ルックス綺麗、時々凄く優しいし、料理うまいし、笑ってくれると嬉しいし」
 
 言っていて悲しくなってきた。
 あんなに最低なのに、こんなに惚れている自分。
 
 「だって、大好きなの」
 
 生徒会室のソファに身体を鎮めながら、呟くとそれは寂しく空気に消えてしまう、と思ったとき。
 
 「ありがとう」
 「ふぉあああえええ」
 「なんだヒロインに有るまじき叫び声だな」
 「…いいもん、本編でのヒロインはどうせc.c.さんじゃない」
 
 ふん、と顔をそむけると、隣でソファが沈んでルルーシュが座ったのだと分かる。
 隣。
 隣に、彼がいる。
 
 ドキドキして、耳の裏が熱くなって。
 
 「ごめんシャーリー。今日がバレンタインデーだなんて知らなかったんだ」
 「……ひどいよ」
 
 うつむいて彼を責めながら、もう本当は許してしまう。
 来てくれた。
 それだけで凄く凄く凄く、嬉しくて。
 
 「うん、だから、せめてものお詫び。シャーリーも、俺にくれるか?」
 「…これ」
 「スザクといっしょに作ったんだ」
 
 初めて顔をあげると、ルルーシュがこれ以上ないくらい優しく微笑んでいた。
 ああもう、なんでこんなにカッコいいんだろう。
 チョコの匂いのするピンク色の箱を受け取ると、まだ拗ねているつもりだったのに頬が緩んでしまった。
 
 「えへへ…」
 「俺には?」
 「…もう、まだ怒ってるんだからね!」
 
 なんとかゆるむ頬を押しとどめて言えば、いつもの調子で「はいはい」と受け流される。
 頬をふくらませながらも、とても幸せで。
 
 「はい…ルルみたいに、うまくないけど」
 「こういうのは、上手い下手じゃないさ。そう教えてくれたのは、お前だろ、シャーリー」
 「……」
 
 頬を赤くして俯きながら、彼が包装を解く音を聞く。
 ぴたっとガサガサした音がとまって、もう開き終わったのだなと分かると緊張でドキドキした。
 
 「…うまい」
 「ほんとに?」
 「ああ、とても」
 
 ぱあっと胸の中のもやもやが全部吹き飛んで、「良かった!」と笑い、急いで手渡されたチョコレートの包装を解く。
 
 「ルルのも、凄いおいしい!」
 「それは良かった」
 「すごく、幸せ者だなぁ、私」

  ルルは微笑んで「うん」と頷いて、私を抱き寄せた。