君のなく声が、きこえるんだ
「…っ!」
午後三時、ゼロ専用執務室。
そこは面談もできるようにと会議室なみに広いが、物が少ないためか、日当たりが悪いからか、どこか寂しい。
面談用のソファや机から少し離れた所に、ポツンとあるゼロのデスクには大量の資料が置かれていた。
そしていつも、そこで一人仕事をするのがゼロの日課であり任務。
今日もそれをするために扉をあければ、目の前の光景に思わず飛び上がってしまった。
「よ、ゼロー。あ、でも駄目だぜ。先代は警戒して戦闘態勢に入れるやり手じゃなかっただろー」
「…、どうして貴方がここにいる」
なんとかゼロモードを保ちつつ、軽快に話しかけてくるジノに低く言う。
ジノは何故かゼロのデスクに座っていた。しかも資料を除いて何か書いてるではないか。
「ちょ…ごほん、何をしているんだ。勝手なことは困るな」
近づきつつ言うと、それには返事せずにジノが言う。
「ゼロ、ここのスペル間違えてる。それから、こっちに置いてある資料はもうやっておいたから。それからお前の了承と意がかかわるものは一応置いておいた」
「は…?!」
ぽんぽんっとひとつの資料の山を叩くジノに、思わず固まった。
ジノがスザクのデスクから立ち上がると、はっとなり動揺しながら口を開く。
「ど、どういうこと? …、だ! おかしい、そんなことを君がする必要は」
「ないな」
「ならどうして、だ」
ゆっくりと近づいてくるジノを仮面の下で睨みあげる。
「いいよ…スザク。私の前では取り繕うな」
「……スザク? 裏切りの騎士はもう死んだ」
「嘘は、なれたみたいだな」
見透かしたように口元に薄笑いを浮かべて近づいてくるジノに思わず後ずさった。
「だけど私は騙せない。もちろん」
少し屈んで黒の仮面に手を触れながら、諭すような口調で。
「ナナリー様…もな」
「…っ君は!」
「好きだからだよ。ナナリー様も、私も、お前がすきだから!」
ジノは口調を荒げる。
「何でわかんないんだよ…馬鹿スザク」
なきそうな声に、思わず顔をあげた。
目に映ったのは、大きな手で自分の両目を隠すジノだった。
こんな彼は見たことがない。
そう思うと胸が痛んで、こちらまで泣きそうになって、首を振る。
泣く資格なんて、僕には…私には、ないのだ。
「お前のなく声が聞こえるんだ」
「…私は泣いていない。泣いてるのは」
「私だな」
ジノはくす、と笑う。
そしてジノが手を自分の目から外すと、ぽろりと一粒、涙がこぼれおちた。
言いたいのは、君がどうなったってもう離れたりしないってこと