こいをしています。
なんて、するのなんて誰にでも出来ることだと思う。
あとはかなえること。
でもそんなことが出来るのは、ほんの一部のひとだけで。
そう思うたび、その一部にはなれないだろうなって泣きそうになるんだ。
きみのこい。1
「ねぇ。ルルーシュ。」
「なんだ」
「…すきなひといるの?」
「愚問だな。俺の好きな人はナナリーだ」
「……そう」
このシスコン野郎。
心の中で悪態をつきながら、自分の机に向かい、書類をじっと見ているルルーシュに溜息をついた。
彼はルックスが凄くいい。中性的な容姿だけど、細身の体にカジュワルなスタイルがよく似合っている。
彼は何を着ても似合うのだ。
高校の時の生徒会長が変わり者で、男女逆転祭、という文字通りの女装をしたときは絶世の美女だったし。
かと思えば、男っぽいファッションもかっこいい。という、誰もが羨むような容姿を持っていた。
さらさらの長めの前髪から覗く、紫色の宝石みたいな瞳が好きだ。
「わ」
ぱさり、と頭に紙の感触。はっとすると、目の前でルルーシュが僕の頭に被せた書類を片手に苦笑していた。
「かまってほしいのか? さっきから人の顔をじっと見て」
「ふぇっ?! いや、ち、そ、んな! 子供じゃないし!」
「まだ高校生だろ」
「僕の方が年齢は上だよ」
まあそれも、厳密にいえば、だけど。
ルルーシュはあまりにも頭が良さすぎて、飛び級していた。
なんだかお偉いさんが口添えしたらしい。これは本当に凄いことで、新聞やニュースでも報道された。
「まあ精々浪人は避けれるように頑張れよ」
「…君は嫌味ばかりだ」
「嫌味じゃない、ホントに不味いと聞いた」
「だ、誰がそんなこと!」
「シャーリー」
「うぐ」
まぁ彼女に言われては仕方ないかもしれない。
毎日というほど勉強を教えてもらって…ってあれ?
「シャーリーと会ったの?!」
まさかのぬけがけ?!
「? 違う。メールだよ。ほとんど毎日してるが」
「ま…っ」
毎日?!
シャーリーずるいっ。
いや僕は毎日会ってるけどね。いやでもっ。
「スザク、百面相もいいが、そろそろ帰らないとまずいんじゃないか? ユフィが呼んでる」
「あっ、ホントだ」
よく耳を澄ませば、ユフィの声が壁越しに聞こえた。
たぶん夜ごはんができたのだろう。
僕は教材を荒っぽくひとつにまとめると、急いで立ち上がる。
「じゃあね、ルルーシュ! また明日」
「ああ」
「ナナリーもばいばい」
「はい」
部屋をすこしのぞけば、机に向かっていた彼女もにこりと笑って手を振ってくれた。
あー可愛い。
それにしてもシャーリー、やっぱり侮れない!
「してるよ! じゃないと私とルル、なかなか会えないんだからね」
スザク君は毎日会えるじゃない、と続けた。
翌日、さっそくシャーリーにそのことで話をすれば、ぷくっと頬を膨らませてきたのだ。
可愛い。
くりっとした大きな瞳に、ぷっくりした唇。女の子らしくやわらかそうな身体。
僕には、ないものを、だってシャーリーはもってる。
「…だって」
「もう! まさかライバルがスザク君なんて思わなかった」
「変っていいたいの?」
男が男を好きだなんて、変過ぎる話だ。
それに違和感を感じても、いや違和感ならいい。
嫌悪感を感じても仕方のない話なのかもしれない。
僕がちょっと嘲笑して言えば、シャーリーは大きく目を開いた。
「どうして?」
「どうしてって…。男が、男を、なんて」
「変じゃないよ!」
「…っ」
ばっと机越しに上半身を近づけるシャーリーに、思わず体がのけぞった。
「むしろ、男なんてそういうのを通り越した愛はすごいと思う。」
「…っ。なんだよ、それ」
「だって、本当のことだもの」
にこっと彼女が笑うと、花が飛ぶ気がする。
ああ、もっとこの子が悪い奴だったら良かったのに。
そしたらもっと、邪剣にできるのに。
いい子だから、困る。
「シャーリー、今度うちに来る?」
「え」
「すっっっっごく嫌だけど、お礼」
「何の」
「いいから。今週の日曜だったらルルーシュいる」
「行く! ありがとうスザク君っ」
シャーリーは顔をゆがめるくらいの満面笑顔で言うと、がばっと抱きついてきた。
「シャーリーッ、年ごろの女の子がそんなことしちゃダメだよ」
「何それ、お父さんみたい」
「なっ」
くすくすと耳元で笑う彼女に、はあ、と溜息をついてしまう。
本当に僕は、何をやっているんだ。
お礼だなんて。
やめとけばいいのに。
ついつい塩を送ってしまう。
だってシャーリーは大切な友達だから。
だけどそれとは別に、ルルーシュを巻き込んではいけないとも思う。
シャーリーと幸せになるべきとも、思ってしまうことがあるからかもしれない。
僕はしあわせになってはいけない