一個の太陽が懸命に発光して、空が青いように。
 
 
 
 
 
 
 
 「ルル? だけ?」
 
 ひょこっと生徒会室の扉から小さな顔が覗く。さらっと彼女の肩に橙の髪がこぼれおちた。
 それに目を細めて、ルルーシュはじっとこちらを見ているクラスメイト・シャーリー・フェネットの疑問に答えながら書類に目を戻す。
 
 「そうだよシャーリー。今日はミレイ会長はお見合い、リヴァルは親戚の用事、ニーナは…どこいったんだろうな。
       まあ、粗方研究でもしているんだろう。こういうことも珍しいから、今日くらいは放っておいてあげようと思ってな」
 
 「そっかぁ…」
 
いつも元気に張った声を出すシャーリーにしては珍しく、どこか溜息を交えたような口調に顔をあげた。
 シャーリーは頬を紅潮させて、目を伏せさせている。
 そして彼女らしくないおずおずとした歩き方でこちらに向かい、ルルーシュの席の隣を人撫でした。
 だけどそこには座らず、その席のまた隣、ルルーシュから一個分席を開けてすとんっと座る。
 その一動を見ていたルルーシュは、気遣ってほほ笑んだ。
 
 「俺と一緒が嫌なら、ニーナを呼ぶけど」
 
 「そ、そんなわけないっ!」
 
 怒声にも似た声をあげた彼女に、さすがのルルーシュも目を見開く。
 沈黙が落ち、シャーリーが眉尻を下げ、泣きそうに顔をゆがめた。
 
 「…違うの。ごめんね、ごめん。気にしないで」
 
 「……よく分からないが、嫌ではないのか?」
 
 ルルーシュは彼女の行動の意図はつかめなかったが、それくらいは分かった。
 ばっとこちらを向いて、大きな緑の瞳をさらに大きくさせ、こくこくっと必至にうなずく彼女に、思わず笑いが漏れる。
 
 「そうか…くっ」
 
 「わ、笑わないでよ!」
 
 「遠いと思うぞ。ほら、ここ」
 
 ルルーシュは彼女との間に割り込んでいるイスをぽんぽんっと叩いた。
 自分がどうしてこんな行動をとったのか、わからない。
 だけど、この距離が邪魔だと思ったんだ。いらないと思った。
 
 「うん!」
 
 ぱあっと光が差すようなシャーリーの笑顔に、引き込まれそうな、胸が痛くなるような、掴み取りたいような、そんな衝動を覚えた。
 
 
 
 
 ――――――――――君は、言った。
 
 
 「ルルは、月みたい。近づこうって、掴み取ろうって思うのに。近づかせてくれないの。埋まらないの。距離が」
 
 
 「シャーリー。ちがう。もし、俺が月だったとしても、君ならすぐに行動をおこして、宇宙船に乗ってやってくるはずだ。」
 
 
ちがうんだよ。
 
君が太陽だったんだ。
 
「じゃあ、いつか、埋まるのかな。埋まらせることが、できるのかな。ルルとの間の、この距離」
 
 君は憂鬱そうに椅子を一撫でし、すべるようにして俺の隣に座った。
 
 「…どうかな」
 
 月と太陽は、交わることは決してないように
俺達の距離は埋まらない。
 
俺は知っている。
 
 でも、君は俺を照らし続けてくれる。
 唯一、信じてくれる、信じ続けれる、たったひとつの
 君と俺は、対になる存在。
 
 だから愛したことも、報われない。
 
 なのに君は、照らし続けてくれる。
 俺の道を。
 
 だけど、今度は、今度はシャーリー。
 一緒に、同じ星に生まれよう。